次に読みたい本がここにある 3 「BEATLESS」

 今回は、長谷敏司は せ さとし著「BEATLESS」(角川書店、平成24年初版)をご紹介します。

 「BEATLESS」は、649ページにも及ぶ長編小説です。
 私の手元にある単行本は、背表紙の厚さが36㎜もあります。本棚に並べると一際その厚さが目立ちます。しかも、1ページが2段組されておりかなり読み応えのある物語となっています。

 物語の舞台は、西暦2105年の東京。
 コンピューターが人間の知識を越えて50年以上が経った社会で、 hIE(humanoid Interface Elementsヒューマノイド インターフェイス エレメンツ)という人間型ロボット、言い換えればアンドロイドが人間社会の人手不足を、時に万年人手不足の接客業、特に飲食業界で多く登用されていた。
 東京は、42年前に起きた災害によってインフラが寸断され、2000万人を越える住民が恐慌状態に陥った。これを解決するために政府が事態収拾の答えを超高度AI「ありあけ」に求めたが、その「ありあけ」が暴走し、人間社会のライフラインが停止してしまった。その結果、餓死者が続出し、最終的に政府「ありあけ」自体をミサイル攻撃で破壊。これら一連の災厄を「ハザード」と呼称していたのです。

 ある日、遠藤アラトはレイシアという少女と出会います。
 レイシアは超高度AIによって作られた自立判断ユニット型のhIEであり、同時にレイシア自身が超高度AI、Type-005でもあった。
アラトはレイシアのオーナーとして登録され、レイシアを破壊しようとする他の4体の自立判断ユニット型のhIEとの戦いに巻き込まれていく。

 他の4体とは、Type-001紅霞コウカ、Type-002 スノウドロップ、Type-003 サトゥルヌス、 Type-004 メトーデ。そして彼らを操る超高度AI「ヒギンズ」。
 人間であるアラトとhIEであるレイシアが互いに手を取り理解し合い、ヒギンズを停止させるべく最後の戦いに挑んでいく。

 まるで人類の近未来を描いたようなこの作品の世界に私は魅了されました。
 私たちの社会でも、そう遠くない未来にシンギュラリティが起きると想定されています。
 ただでさえ、AIの進化で私たちの職業がAIに取って代わられてしまうと危惧されていますから、 物語にあるようなhIEが、いつ出現してもおかしくないのです。
 とすると、この物語に描かれている事態が小説の中の夢物語だと、簡単に笑い飛ばせないのではないかと私には思えるのです。

 物語全体に貫かれているキーワードがあります。
 それは「あなたは私を信じますか?」というレイシアの言葉。

 機械であり魂を持たないレイシアと、生身の人間の遠藤アラト。
 二人を結びつけ、支えたのが互いを信じる心でした。

 hIEと人間社会との関わりを描いた物語ですが、互いを認め信じ合う「心」が大事であることは古今東西、変わらない心理だと私は思います。
 物語の終盤、レイシアは最後のミッションをアラトに託します。
 レイシアはアラトと出会った時、自分には魂がないと言っていましたが、この場面に至り、確かにレイシアには心があり、魂があったのではないかと思えるのです。

 hIEという機械と人間との物語。
 それは私たちの近未来に起こりうる物語でもあり、しかし、いまの私たちの現実社会にすでに起きている事態なのかも知れません。

 この物語は映像化もされていますが、是非、本を手に取って、みなさんの頭の中に物語の世界を思い浮かべて、レイシアとアラトの心を読み取りながら読んで欲しいと思います。

 どっしりと読み応えのある物語ですが、読み終えると誰かに優しくなれる、そんな優しい物語でもあると思います。

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