今回ご紹介するのは、綿矢りささん著の「ひらいて」です。
2021年に映画化もされた話題作なので、ご存知の方も多いかも知れません。
この本をご紹介するのには理由があって、私が拙著「オブシディアンの指環」を書くにあたって、小説の書き方など全く知らない私が教科書にした本の一つだからです。
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教科書とは? という声が聞こえてきそうですが、この本を丸写ししたのです。
本を丸写しすることを「写経」と呼ぶそうで、さすがに長編小説はつらいので、比較的短編の小説がいいとされています。
私が選んだのが、この「ひらいて」と「コンビニ人間」(村田沙耶香さん著 文春文庫 芥川賞受賞作品)です。
コンビニ人間については、次回、ご紹介する予定です。
「ひらいて」の印象は、とにかく出だしですね。
彼の瞳。
凝縮された悲しみが、目の奥で結晶化されて、微笑むときでさえ宿っている。本人は気付いていない。光の散る笑み、静かに降る雨、ひさしの薄暗い影。
存在するだけで私の胸を苦しくさせる人間が、この教室にいる。
どうしようもなく引き込まれてしまうのです。
彼とは、物語の主人公の一人、西村たとえ。そして物語は木村愛という女子高生の一人称で描かれていきます。
「たとえ」に恋心を抱いている愛は、ある日、たとえが学校の誰かと文通していることを知ってしまう。そして、ある日の夜、友人たちと夜の学校に忍び込み事になったその機会を利用して、たとえの文通の相手を突きとめようとする。
物語の中で、愛自身が「私の恋心はいびつにねじくれて」と語っているように、愛の例えに関する恋心には狂気さえ感じます。その狂気は、たとえの恋人である新藤美雪に向けられていきます。
実はこの学校忍び込み事件の時、もう一つの恋心が愛に向けられます。
一つは、男子からの恋心。もう一つは、その男子に恋心を抱く女子からの鋭い嫉妬心。
物語のネタバレになってしまうので、名は伏せておきます。そして、この件は「オブシディアンの指環」の中のあるシーンに、直接的ではありませんが、少なくとも影響を受けて書かれた場面があります。
「ひらいて」で描かれているのは、
自分の好きな人の目が自分ではない女の子に向けられている。
どうにかして彼の目を自分に向けさせたい。どうする?
彼女を奪ってしまえばいい。
愛は美雪に近づき、たとえよりも先に彼女を奪う。
そして冒頭語られた「たとえ」の悲しみの理由が次第に明かされていきます。
RADWINPSが、18歳の子どもたちに向けて書いた「正解」という楽曲の歌詞にこんな件があります。
答えがある問いばかりを教わってきたよ
僕たちが知りたかったのは、いつも正解など銀河にもない
大好きなあの子の心の振り向かせ方
答えがすでにある問いなんかに、用などはない
大好きな彼、たとえを自分のものにするためには手段を厭わない。
でもその手段すら、そのときの自分の経験値と想像力以上の手段を選ぶことが出来ない。
物語の最後、愛は教室を飛び出して電車に飛び乗る。
「たとえ」は、どこへ行くのか。
美雪は、どこへ行くのか。
そして、自分は?
電車の中で出会った男の子に愛は呟く。
「ひらいて」


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