次に読みたい本がここにある 8 「凜として弓を引く」

 今回ご紹介するのは、碧野圭あおの けいさん著の「りんとして弓を引く」(講談社文庫)です。

 拙著「オブシディアンの指環」の続編を書くにあたり、注目していたのが「弓」でした。
 というのも、オブシディアンの指環では主人公の藤井夢心ふじいゆめが「天羽々斬剣あめのはばきりのつるぎ」という神剣を武器に活躍します。続編では、オブシディアンの指環 下巻の最後に登場する土井穂明里どいほたるという人物を中心に描きたいという思いがあって、それでは穂明里にどんな武器を持たせようかと考えたときに「弓」に行き着いたというわけです。

 私は、小学校と中学校で剣道していましたが、弓道については全く分かりません。
 ならば、ということでまずは弓道に関する小説を読んでみようと、まず手に取ったのがこの本でした。

 物語は、主人公の矢口楓やぐちかえでが引っ越した先の近くの神社にお詣りをした際、偶然、境内の奥で行われていた弓道大会を目にしたことから始まります。この辺りのくだりは、私の小説の中でも大いに参考にさせていただきました。

 はじめ、パン! という弦音にかれた楓でしたが、見ているうちにその所作にも見惚れているうちに、一人の少年と目が合い、弓道の体験教室に誘われます。ある日、楓は学校で真田善美さなだよしみと偶然出会います。善美は楓が通った弓道の体験教室で出会った子でもあったのです。

 善美と出会ったことで楓は本格的に弓道をはじめることとなり、物語は無垢で真っ直ぐな楓と、学年一の美少女と称される一方で過去に暗い影を持つ善美と善美の兄、真田乙矢さなだおとや、彼らを取り巻く大人たちの事情が複雑に絡み合って進んでいきます。

 物語を読んで、次に私がしたことは、実際に弓道大会を見に行くことでした。

 調べてみると、近くの弓道場で高体連の予選が近々行われることを知り、朝から会場の弓道場に向かいました。

 初めて見る弓道場には、思った板よりも遙かに多くの人がいて、選手の高校生はもちろん、保護者の数も多く、射場と矢道、そして的が一度に見渡せる生け垣の最前列を確保するのが大変でした。的場には点数表があって、的に中れば〇が、外れれば×が表示されるようになっています。

 上の写真ですが、1から6までの数字は選手が6人いることを表しています。
 つまり、いま、6人が同時に矢を射っていることになります。
 この試合では1人が4本の矢を射って勝敗を決める試合で、例えば2番の選手は全ての矢が的に中る「皆中」という優秀な成績だったことが分かります。4番の選手も惜しかったですね。6番目の選手は最後「〇」が見えるので、最後に的に中てたということでしょうか。

 試合が始まる前には、私がいるところとは矢道を挟んで反対側の矢取り道の向こうで巻藁に向かって練習している選手の姿が見えます。リアルに目に見えることの全てが物語の中に書いてあったことと同じでした。

 試合が始まると、物語の中で楓が気を惹かれた「パン!」という的中音が聞こえます。
 同時に、的を外した矢が安土に刺さるときの「ばすん!」という音も耳に残ります。
 そしてなりより、矢を射るときの「カン!」という弦音の響きはとても美しい。
 また最前列で見ていたせいか、放たれた矢が的に向かって飛んでいくときの「シュルシュル」と音を訊けたことも収穫でした。

 物語に登場する真田乙矢さなだおとやという名前ですが、当然と言えば当然ですが、弓道に由来しています。

 弓道では一人の選手が二本の矢を放ちます。
 最初の矢を甲矢はやと呼び、二本目の矢を乙矢おとやと呼ぶのです。そして甲矢は時計回りに、乙矢は反時計回りに回転して的を目指して飛んでいきます。このことは、また別の弓道関係の小説でしることになるのですが、この本については、また改めてご紹介したいと思います。

 この本の中で楓が胴着や袴をはじめて身に付けるシーンがあります。
 私もお正月には和服を着るのですが、やはり洋服とは違って、和服は背筋が伸びて身がシャンとします。こうした日本の伝統文化についても細かく描かれていて、古来より日本人が大切にしてきた精神性を改めて見つめ直す切っ掛けにもなりました。

 この記事の冒頭、オブシディアンの指環の続編に弓を登場させたいと書きましたが、その続編にあたる「故郷への旅路」では、登場する土井穂明里に「天之麻迦古弓あめのまかこのゆみ」と「天之羽々矢あめのははや」を持たせました。いずれも古事記の天若日子あめのわかひこの神話に登場するアイテムで、故郷への旅路でもこの件は参考にさせていただきました。

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 弓道を経験されている方はもちろん、弓道に興味がある方、あるいはこれから始めようと思っている方、私のように見るだけでいいと思います。そんな方に是非、是非、読んで欲しい1冊です。
 続編の「凜として弓を引く 青雲篇」も刊行されていますので、合わせて読んでみてはいかがでしょうか。

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