次に読みたい本がここにある 18 「かがみの孤城」

 今回ご紹介するのは、辻村深月さん著の「かがみの孤城」です。前回の「白雪姫と五枚の絵」と同じ、童話繋がりということで取り上げました。「かがみの孤城」の中にある童話というのは「赤ずきんちゃん」と「狼と7匹の子山羊」です。

 主人公の安斉こころは、雪科第五中学校に入学してすぐの五月、学校に行けなくなってしまう。
 そんなある日、自分の部屋にある姿見の中に吸い込まれ、異世界の城に招かれてしまいます。そこには、こころの他に6人の子どもたちと一匹の狼がいました。狼は、7人の子どもたちをまとめて「赤ずきんちゃん」と呼び、彼ら彼女らが迷い込んだ異世界の城の中に〝願いの部屋〟があるといい、7人のうち、たった一人だけの願いを叶えることが出来ると言います。

 オオカミは言います。願いの部屋に入るためには、城のどこかにある〝願いの鍵〟を探す必要がある。それを7人で協力して探せと。たった一人の願いを叶えるために。

 城への行き来は、鏡を通じて行います。城が開いているのは、午前9時から午後5時まで。願いの鍵を探せるのは、3月30日まで。それまでに鍵を見つけることが出来なければ、鍵は消滅してしまう。つまり願いを叶えることは出来なくなるのです。また夕方5時を過ぎても城に残っていた場合には、狼に食べられてしまうというペナルティがあるといいます。

 誰か一人の願いを叶えるために、7人で願いの鍵を探す。
 明らかに矛盾に満ちたミッションだと、分かります。
 城に招かれた7人にはそれぞれの「事情」があって、それが少しずつ明らかにされていくと同時に、7人には〝ある共通点〟があることが明らかになっていきます。そして、誰もが誰かに知られないように、悟られないように密かに鍵を探し始めるのです。

 この物語の最初の2ページ、プロローグとも言うべき、20行の「物語」の最後にはこんな1行があります。

「そんな奇跡が起きないことは、知っている」

 私は、この1文に強烈に引き込まれました。

 そして、この1文は読み手である私たちに、この物語のテーマの中に「いじめ」があるのではないかという氣付きを与えるのです。その氣付きは実はあたりで、物語の中にくさびのように打ち込まれる「いじめ」のシーンには、思わず息を呑みます。それは、おそらく、いまの日本のあちこちで起きているであろう「現実」なんだと思います

 安斉こころは、はじめ、自分が不登校になってしまったのは「いじめ」が原因であることに氣付いていない。もちろん、家族もです。だから、不登校になってしまったこころに対して母親が冷たく中るシーンがあるのですが、それもまた、こころの側に立って物語を読んでしまう読者にとっては、心なしかせつない。

 母親は、こころを子どもの育成支援を行っている「心の教室」へ連れて行き、そこで喜多嶋という女性に出会う。彼女もまた、雪科第五中学校の卒業生だったのです。多少ネタバレになるかも知れませんが、この1文もまた、物語全体を支える強烈な〝しかけ〟だったのです。

 とまあ、このような設定で物語が進んでいくのですが、冒頭、赤ずきんちゃんの童話がこの物語の中に埋め込まれていると言ったのは、お城の主として振る舞う「オオカミさま」が、7人の子どもたちを「赤ずきんちゃん」と呼び、城のルールを守らなかったら狼に食べられてしまうと言っていることから分かります。

 一方の「狼と7匹の子山羊」もまた、城にはオオカミさまという主がいて、7人の子山羊たる子どもたちがいることから、想像が付くし、物語の中でも「狼と7匹の子山羊」という台詞が出てくることからも明らかです。

 しかし、辻村さんの各物語は、そうそう私たちの頭の中で想像できるものではありません。

 以前紹介した「物語工学論 キャラクターのつくり方」に照らし合わせてみると「塔の中の姫君」にあるのではないかと思います。塔の中の姫君とは、文字通り、囚われの身となっている主人公、キャラクターが最後には解放されるという設定になるのですが、その囚われ方や解放に至るプロセスが物語の鍵になっていくのです。

 こころの場合には、いじめによって心が囚われ、意に反して招かれた城=異世界にてこころを囚われの身に置いてしまう場所から、いかにして解放されるのかを、さすが辻村さんは描ききっています。そして心身を囚われているのは心だけではなく、城に招かれた7人全員なのであり、物語の最後には7人全員が解放されていくのです。

 そしてまた、この物語は鏡を通して異世界と繋がっているという「時空を越える」物語でもあるとともに、最後の最後に明かされるこの物語の「骨」にもまた「時空を越える」展開が待ち受けており、思わず唸ってしまいます。

 安斉こころという中学1年生の少女が、かがみの孤城でどんな風に成長し、物語の最後にどんな運命が彼女を待ち受けているのか。そんなことを楽しみに読める1冊です。

 この物語はアニメ映画化もされていますね。
 見ているうちに「あれっ?」と思ったことがあって、城のオオカミさまの声を芦田愛菜ちゃんが担当していたのです。彼女にしては珍しく「台詞の棒読み」みたいに聞こえたのは、氣のせいかな?

 いつも言うように、映画化された作品と小説は、全く別の作品だと私は思っています。
 そういう意識で見ると、映画もまた面白い作品の一つになっているのではないでしょうか。

 今回ご紹介したのは、辻村深月さん著の「かがみの孤城」でした。
 みなさんは、どんな感想を抱くでしょうか。

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